(2014.7.10)
【顕微鏡撮影に必要な3つのポイント】
ご自分でも顕微鏡を使っている方から私の撮影した映像をお褒めいただき「何か特別なことをしているのですか?」と尋ねられることがあります。
ありがたいお言葉ですが実は特別なことをしている訳ではなく、ごく基本的なことをしているだけです。
逆に言えば多くの方々はその当たり前のことをしていないがために顕微鏡の性能を十分に引き出せていないと思われます。
ここでは「生きものが生きている姿を捉える」というグレンデルのテーマにもとづいて明視野、暗視野、位相差、偏光などについて以下の3つのポイントについて簡単にお話しします。
・顕微鏡の選択:目的にあった機材を揃えること
・顕微鏡の管理:マニュアルに従ってキチンと設定すること
・プレパラートの作成:顕微鏡の特性に合わせて試料をアレンジすること
【顕微鏡の選択】
まずはできるかぎり高性能の顕微鏡を使うことです。
もちろんコストの問題もあるので懐具合との相談になのですが…。
臨床検査の現場や金属加工工場では特定倍率のレンズだけ高額のものを購入しているなど実に理にかなったシステムが組まれた顕微鏡を見かけます。
逆に「お金のある施設」ほど高価なだけで画質の伴わない顕微鏡をが置かれているケースが見られます。
性能の良いレンズほど値段が高くなるのは仕方のないことですが、中には電動仕様など使い勝手のための費用であったり、あえて手間を省くためにわざわざ光学性能を落としている機種もあるので要注意です。
顕微鏡の光学系は1872年のエルンスト・アッベの正弦条件論文発表で飛躍的進歩を遂げてから進歩し続けておりすでに出来上がった分野と言えるでしょう。
日進月歩のデジタルカメラとは異なり新しければいいというものでもありません。
状態が良ければ中古品でも掘り出し物もあるものです。
複数のメーカーの製品に詳しい販売店に相談するのが良いでしょう。
ちなみに弊社ではミジンコのような低倍レンズでもはみ出しそうなものから光学の限界近くが必要なバクテリアまでを対象と考えており、なおかつそれぞれに特化した顕微鏡を使い分けることはできないので主にCarl Zeiss社の【Axioplan】という万能型の顕微鏡を使っています。
【顕微鏡の管理】
私たちはちょっとした小技を使うことはありますが、画質向上の基本はマニュアル通りに調整することです。
ランプの芯出しに始まり、視野絞りや開口絞りの調整などをこまめに行うことが重要です。無調整な状態と比べて驚くほど画質が向上することがあります。
(調整のポイントページを工事中です)
もう一つはクリーニングです。
かなり性能がいいはずの顕微鏡をお借りして先の手順で調整したのに「こんなに見えないはずがない」ということもありました。
そこで対物レンズを外して接眼レンズを反対向けにして見るとビックリするほど汚れていたので掃除したところ視野は霧が晴れたようにスッキリ。
この他にもコンデンサーレンズなど表面がむき出しになっているところは可能な限り汚れを落とします。
レンズペーパーとクリーニング液で拭くだけで改善しますが自信がなければ無理はしないこと。かえって手がつけられなくなります。
もちろん分解掃除が必要な時はその道のプロに任せましょう。
そうならないためにも普段の管理が重要です。
特に怖いのはカビです。表面だけなら救われることもありますが諦めなければならないことも…。
水気のあるもので汚した時にすぐ拭き取ることはもちろん、ダストカバーを使ったり長期間使わない時の湿気対策も重要になります。
【プレパラートの作成】
例えば「水棲微生物を見たいのでシャレーに入れて、倒立顕微鏡のステージに置いて…」。
それでは画質は上がりません。
肉眼では透き通って見えるプラスチックも顕微鏡の拡大率の前では分厚いフィルターです。
レンズと被写体の間をカバーガラスにするような容器を作ることも重要になります。
そして可能な限り正立顕微鏡を使うこと。厳密に言えば正立顕微鏡用のコンデンサーを使うことです。
一般的に倒立顕微鏡用の長焦点コンデンサーは実用性を重視する分、画質を犠牲にしており正立顕微鏡用のものに比べて性能が落ちます。
機種によっては限界がありますがかつての細胞微速度撮影では倒立顕微鏡に正立用コンデンサーを取り付けていました。
ただし正立顕微鏡用のコンデンサーは被写体までの作動距離(=物理的な距離)が短くなるのでいかに薄いプレパラートを作るかも課題になります。
被写体に合う顕微鏡を探すだけでなく、顕微鏡に合わせたプレパラートをアレンジするという発想が画質向上のカギとなります。